谷田川物語 8
谷田川改修二関スル請願書
源ヲ巣鴨町及西巣鴨町二發シ本町大字西ヶ原、中里及田瑞ヲ貫流スル谷田川ハ近来其ノ両岸商衙住宅地卜化シ之ヨリ放流スル汚水ハ河川二集注シテ悪臭紛々病毒ノ淵叢タルノ感アリ、一朝降雨ニ際曾センカ本郷区駒込一帯ノ雨水ヲ合シ一瞬倏チ濁流奔溢シテ居宅ヲ襲ヒ毎年ノ浸水家屋千数百戸ヲ算シ其惨憺タル被害名状スヘカラザルモノ有之候 従而居住者ノ移動常ナク土地発展上至大ノ障害タルハ勿論衛生及交通上一日モ忽ニス可カラザル処二有之候 而モ本年度ヨリ巣鴨町二於テハ大下水道工事計画成リ谷田川流域ニ下水埋管設計ヲナシクルヲ以テ工事竣成ノ暁ハ降雨期ニ於ケル汚水ノ流速ハ一層増大スルト同時二下流氾氾濫ノ度ヲ加フルハ火ヲ睹ルヨリ瞭ナル処ニ御座候
従来其ノ堆持修繕ニ関シテハ多クハ関係者有志ノ醵出ニ依リ其ノ不足ハ町費ヲ以テスル等辛シテ応急施設ヲ為シ来リタルモ之カ根本的治水問題ニ付テハ関係町村間多年ノ懸案ニ有之完全ナル改修ノ必夢ヲ痛感致居候 然レドモ何分窮迫セル現下ノ町財政ヲ以テシテハ到底之ガ負擔二堪へザルノ実情ニ候 而己ナヲズ斯ル性質ノ事業ハ町費支弁ニ候ヲ可キノニ非ラザル様ニモ被存候
大正十五年十二月十七日本郡選出府会議員ノ発議卜四十五名ノ賛成者連署ヲ以テ通常府会倉ニ建議セヲレ満場一致ノ協賛ヲ経タルコトモ亦右ノ御趣意ニ外ナラザル義卜披存候
然ルニ爾来四ケ年ノ歳月ヲ経過シ四中ノ事情ハ今後一日モ忽緒ニ附スルヲ不許ノ実情ニ相成居リ最早此上ハ其ノ実行二俟テ解決スルノ外方策無之場合二候間何卒事情御諒察被成下速ニ実地御踏査ノ上適當ノ治水計画ヲ確定セラレ御遂行相成侯様致度
右本町々会ノ決議ニ依リ及請願候
昭和五年六月 日
瀧野川町長 名倉安予太郎
東京府知事 牛塚虎太郎 殿
※一部の漢字については、現代表記に改めている。